寝具はオーダーメイドがいい

ベッドは高価な買い物なのに、寝具に対する十分な知識を持たず、客観的な評価尺度による判断がないままに、販売店のすすめやネット上の評判、嗜好や感覚などで、自分に一番合っていると思い込んで購入してしまう人が後を絶ちません。

しかも、一生モノという意識で購入していますから、10年、20年にも及んで使用します。ベッドの寿命までおつき合いする人がほとんどではないでしょうか。しかし、そもそも、この考え方は正しくありません。

本来、体を長時間預ける寝具は、加齢とともに進む体格や体形の変化、ライフスタイルや環境の変化に合わせて、変わり続けるのが自然です。そのためには、購入する時は個人の体形にきちんと合ったものを選択することが大事です。そして、体形等の変化に合わせてきめ細やかな調節やメンテナンスを継続する必要があります。

言い換えれば、睡眠姿勢革命は自分の体に合ったベッドをオーダーメイドするところから始まります。

この分野で先駆的な研究をした千葉大学名誉教授の小原二郎先生は、人間工学の視点からよい寝具に関して、次のように述べています。

「敷く側の条件は仰臥の姿勢を基本にして、寝返りがうちやすいところに目標を置けばよさそうだという結論に落ち着く。(中略)健康な人が立った時の背骨のS字形の曲がりは、ふつう四~六センチであるが、寝て気持ちがよいと感ずる背骨の曲がりは、その二分の一にあたる2~3センチである。(中略)安眠して疲労を回復させるためには、仰臥した時、背骨は立った時よりもまっすぐになっていることが必要である。(中略)実際に寝具を作る側からいうと、かなり難しい技術を必要とする」

たしかに、これだけのことを実現していくのは大変そうです。

そこで、私たちはこの考え方を踏まえて、さらに、個人個人の体格や体形に合わせてオーダーメイドとし、しかも、場所、時を越えて使える寝具を提案します。そんなことが可能になるのか、という疑問をお持ちになるかと思います。しかし、ベッドに対して人間工学による科学的なメスが入れられてから四半世紀ほど経ち、睡眠と睡眠姿勢に関する学際的な研究が大幅に進歩しました。

睡眠姿勢に関して、人間の体形を中心にした人間工学的手法に加えて、整形外科学的なサイドからレントゲンやCT、MRIによる臥位の骨格と筋の形態を解析する手法、ポリソムノグラフィー(PSG)検査による睡眠の質の評価手法、コンピュータによる人体データの詳細な計測、モーションキャプチャシステムによる動的な睡眠姿勢の計測では、動きのある筋骨格モデルのコンピュータグラフィックス(CG)による仮視化などが行えるようになりました。

これらにより、睡眠姿勢における人体の静的および動的な筋骨格の構造と動きのメカニズム、睡眠時の睡眠深度などの科学的な評価、寝返りなど睡眠時の運動のメカニズムなどがわかってきました。

そこで私たちは、次のようなアプローチを採ることにしました。

コンピュータやセンサー技術の急速な進展により、人間の動きを細かくとらえること、ができるようになりました。この最新技術を睡眠姿勢の解析と寝具の開発に応用するわけです。

魅力的な最新の計測技術についてはあえてが、寝返りなどの動的な睡眠姿勢をmm単位の高精度に、なおかつ、100分の1秒の微小時間から数時間に及ぶ終夜の動きまで、とらえることが可能となります。人手では処理が大変な膨大な計測データをコンピュータで解析し、CGの技術で大型画面にわかりやすく可視化することにより、睡眠姿勢を多面的に検討することができます。これによって、睡眠姿勢の探求に一層弾みがついています。

動的睡眠姿勢の計測と、従来の手法で計測した静的な睡眠姿勢と合わせて、利用者に最適な睡眠姿勢を支えるように調節されたオーダーメイドベッド、オーダーメイド枕などの自分専用の寝具を作ることが可能になったのです。

これまでのベッドは日本人の平均体格に合わせ、万人向けのレディメイドの寝具として、最大公約数のサイズで提供されてきました。これは、JIS(日本工業規格H工業標準化の促進を目的とする国家規格)でも決まっています。寝室のサイズとも深く関係するので、もっともなことです。

しかし、ベッドの上に乗せるマットレスは違います。はっきりとした基準はありません。

それぞれのメーカーが独自の特長を謳って百家争鳴の状態です。そのような中で困惑しながら、素材の硬さや軟らかさといった好みや、横になった時の感触などで選んでいませんか。

振り返って、寝具以外の身にまとう物ではどうでしょうか。たとえば、眼鏡は視力を計測して作りますし、衣服は体格や体形に合わせて選ぶのが当たり前です。それなのに、毎日8時間前後も体を預けるベッドでは、そのようなことが行われてこなかったことに、改めて不合理を感じます。定量化された基準がないのです。

寝具にはオーダーメイド文化が乏しかったのかもしれません。この考え方を根本から改めたいと思います。睡眠姿勢革命の第1宣言は、寝具のオーダーメイドです。

 

睡眠と寝返り

「彼らが眠っているあいだ、われら神が彼らを右に左に寝返りを打たせているところ見れば、汝もきっと彼らが目を覚ましていると思ったであろう」

これは、1500年ほど前に書かれたイスラム教経典のコーランの中の文章です。

おそらく寝返りに対して記述された現存する最も古い時代層に属する文章でしょう。神の見えざる手により寝返りをさせて敵に寝ているのを悟られないようにする、というくだりです。

おちおち眠れないことが多かった古代の人々の緊張感が伝わってくるとともに、神が睡眠姿勢までも操作して、見守ってくれているということです。

でも、平和な現代において、睡眠は一日の疲れを取り明日への英気を養う大切な行為です。寝返りは、どういう意味があるのでしょうか?

よい睡眠姿勢を保てれば、睡眠姿勢異常からくる頚椎症、肩こり、頭痛などのつらい症状は軽減できます。

至適睡眠姿勢の3大要素とは、仰臥位(仰向けで寝る姿)で頭と臥床面の角度が15度前後になる、側臥位(横向きに寝る姿)で頭から足に至る中心線が臥床面と平行になる、自然な寝返りを行える、ということです。

この3つの要素を満たした姿勢を保持するためには寝具が重要になります。最適な寝具の提供が、よい睡眠を取る必要な条件となります。

医学的に解明し、工学的に理想の寝具を開発し、IT技術を駆使して睡眠姿勢見守りサービスを提供していくことが、睡眠姿勢革命です。

そう考え、科学的な見地から、よい睡眠姿勢とそれを支える寝具のありよう、すなわち、ベッドと枕とITについて述べていくことにします。

そうすることで、コーランにある「神の見えざる手」に一歩でも近づくことができるのではないでしょうか。